Anton Corbijn 「ラスト・ターゲット」を語る (from update-NL)

_DSC3260著名な音楽家のポートレート写真で知られる写真家アントン・コービン。
最近は、映画監督としても大活躍する彼の監督第2作目「ラスト・ターゲット」(原題「ジ・アメリカン」)が7月2日から日本でも上映されている。

雑誌PENの記事のために、日本での上映に先駆けてコービンを取材した。

コービンから話を聞くのは、実はこれで2度目。前回は彼の監督デビュー作「コントロール」が完成したばかりの2007年だった。その時も今回と同じ、デン・ハーグのホテルで待ち合わせた。

「実は、肺炎になってしまってしばらく入院してたんだ」と言う彼は、まだ本調子ではなかった様子。それでもたっぷりと時間をとってくれて、映画についてだけではなく、写真のこと、そのほかの制作活動、デン・ハーグでの生活など、さまざまな話をしてくれた。

その一部を紹介します。

ラスト・ターゲットとジョージ・クルーニー

ジョージ・クルーニーが殺し屋を演じる、全米ナンバーワンのハリウッド映画。
そう聞いて、銃弾飛び交うスピーディーなアクション映画を期待して映画館に向かった人は、意外な展開に驚いたに違いない。
「全米ナンバーワンとはいえ、アメリカでの反応もさまざまだった。
「アクション映画じゃないじゃないか!!」と怒る映画館もあったらしいよ」と苦笑するのは、当の監督、アントン・コービン。
確かに、映画の中で響く銃声は数えるほど。そして大半のシーンでは、クルーニー扮するジャックの心の動きが、美しい情景の中で静かに描き出されている。
この映画の見どころは、「ある男が、その人生を変えようとする姿」とコービン。そして「その心の動きが、牧師と娼婦という、社会の中で最も対極的な存在のキーパーソンとの関係で展開していく、というところも見どころだと思う」と言う。

「最初にシナリオを読んだとき、何人かの役者の顔が頭に浮かんだ。ジョージは間違いなくその一人」という。「なにしろ、映画の中では、<何もしていないジャック>を何分も見せることになる。沈黙を個性的に演じることができる役者である必要があった」。
名役者ジョージ・クルーニーは、これまでにはない暗い役柄を見事に演じた。

そのジョージ・クルーニーだが、名役者であるだけではなく、自ら監督やプロデューサーも務める映画界の強者だ。「だから、撮影を始める前は、どうなることかと心配な部分もあった」とコービンは打ち明ける。
「撮影現場にいるスタッフの中で、一番映画経験が少ないのがこの僕だからね。長いキャリアを持つジョージは、積み重ねた経験と知識で的確な判断をする。撮影中何度か、「「僕ならこうするんだが」」と感じた、と言っていた。でも最後には、「「君の判断は正しかったよ!」」と言われ、直感をたよりに映画を作るっていうのも、あながち間違いではないと確信したよ」

_DSC3258K「今はデン・ハーグにも拠点を構えている。近々フォト・スタジオも完成する予定。この街は、街中から徒歩でたった5分のところに森がある。少し行けばスヘーヴェニンゲンの海岸もある。街にいながらにして、自然に触れられるのが魅力」と言う。映画制作の拠点はロンドンに残し、写真の拠点をオランダに移したという彼。撮影のために世界を駈け回る傍ら、かなり忙しくロンドンとデン・ハーグを行き来している様子だった。

一作目の成功がまぐれではなかったことを確かめたかった

「ラスト・ターゲット」を手がける前に、コービンは「2作目の映画は、1作目とはあらゆる点でまったく違う作品にしたいと思った」という。
1作目はモノクロで、実在した人物を描いたドキュメンタリー風のインディーズ。
しかもその人物とは、イアン・カーティスという、コービンがオランダからロンドンへと移り住むきっかけとなったほど強烈なインパクトを与えた、イギリスのロック・シンガーだ。
写真から映画へという大きなステップはあったにしても、それまでの音楽界を中心とした写真活動の延長上にある、ロジカルなステップを行く作品ではあった。
一方今回は、フィクション映画、しかもハリウッド仕立てだ。
「前作の成功はまぐれだったかもしれない。そんな思いもあった。だからこそ、音楽という慣れ親しんだフィールドからも離れ、もっと深く自分にとって映画とは何か問いかけ、何ができ、何が僕にあっているのかを見極める意味も含めて、敢えて前作とは全く異なる作品を目指したんだ」と厳しい評価と自己探求について説明した。
コービンにとって「ラスト・ターゲット」は、自分を再確認、再発見するという意味も含めて大きなチャレンジとなった様子だった。

映画、そして写真について

2作目の映画が完成したあと、コービンは色々なインタビューで、「映画を3作作ってみて、その後に映画を続けるかどうかを見極めたい」と答えていた。
それについてもう一度問い直してみると、「いや、やっぱりもっと作るよ」と即答。
そして「写真も続けるよ」と付け加える。

「写真制作の中では、自分がどの辺まで到達できるのかが事前にわかる。
50才過ぎて始めた映画には、まだ未知の領域が多く、冒険と発見がいっぱいだ。
そこが面白いところだね。何をやるにしても、発見がなくなり、成功の法則にしたがって機械的に取り組まなければならなくなったら、僕は続けてはいけない。
映画屋、写真屋になるのはごめんだ。仕事っていうスタンスでモノを作るのは絶対にいやだね。とにかく僕は、常に革新し続けていきたい。それが僕にとっての”クリエーション”だから」。
そして、企画段階から大勢の人が関わり、チームで創り上げる映画という複雑なメディアを体験し、「写真のシンプリシティーを再発見した」とも言う。
「たった一人カメラを持って世界をまわり、僕をインスパイヤーするクリエーティブな人たちと一杯の紅茶を飲み、そしてポートレートを撮る。そんなシンプルな制作の魅力を、映画制作を通して再発見した」。

コービンは、映画や写真の他にも、グラフィック・デザインやステージ・デザインも手がける。
多才なクリエーターだ。
「僕は多忙な生活をしている。そしてやりたいことが山積みになって順番を待っている。あれも、これも、と、次々とやりたいことが生まれてきて、いつもそのことについて考えている。つまり、まったく落ち着けない日々なんだ。自分でもあきれるよ」と苦笑した。

3作目の映画も、すでに構想はできあがっている様子。
一ファンとしては、そちらも待ち遠しいところだ。