ピート・ヘイン・エークのレクチャー・プロジェクト(from updateNL)

shapeimage_1

このレクチャーは、ピート・ヘイン・エーク(1967)が企画した「レクチャー・プロジェクト」という興味深い講演会シリーズの第一弾である。

ピート・ヘイン・エークと言えば、廃材を素材にした家具「スクラップ・ファニチャー」(1990~)を発表して以来、世界的に注目されるプロダクト・デザイナーだ。彼は作品を通して、常に新しいものを求めて消費を続ける「消費社会のあり方」に疑問を投げかけ、廃材でつくった家具や使い古したものも美しいと感じられる新しい審美眼を提言。デザイン界に新しい価値観を生み出した人物だ。プロデューサーとしても逸材で、自分の作品を自社生産するために、クラフトとの絶妙なバランス感覚を保つ「ちょうどよい」量産を可能にした独自の生産メソッドも考案している。
一昨年、床総面積約1万2千平方メートルという巨大な仕事場に移転してから、これまでのプロダクトデザイン、空間デザイン、そして自作品の生産に加えて、ショップやレストラン、ギャラリーのほか、イベントのオーガナイズまで、幅広い文化的活躍を展開し始めた。自身もクリエイティブな実業家として、手探りで行く手を切り拓いていったピートは、クリエイティビティと企業精神というテーマについて、常々思いをめぐらせている。不安定で混乱した時代の中で、芸術や文化がどのような意味を持つか?その中で、クリエイティブな実業家が果たすべき役割は?
クリエーターの企業精神とは?
クリエーターとして、自分の土壌をどのように耕していくのか?
これらをテーマに、独自の展開で世界を牽引している人物に話を聞こうというのが、このレクチャー・プロジェクトの主旨だ。
参加は無料で、ピートのスタジオが送付するニュースレターで希望者を募った。申し込み数はあっという間に700を超え、先着の約450人が参加した。「クリエイティブな事業というテーマは、今の時代に注目するべきテーマだと思う。このレクチャー・プロジェクトには、これから起業しようとする若いクリエーターから、すでに実績のあるビジネスマンまで、幅広い層の人たちに集まってほしいと考えている。実績のある実業家は、このようなレクチャーに高い料金を払うことに慣れているが、若いクリエーターたちにとっては高いハードルだ。今後のことは様子を見ながら進めなければならないが、若手からプロという幅広い層を集めること、そしてこのプロジェクトにかかるコストを別の形で工面することの2点を実現できれば、参加は無料という形でがんばりたい」とピートは説明する。

ちなみに第二弾は、スティーブ・ジョブスで、と考えていたのだそう。

_DSC6850

司会を務めるピートは、いつもと全く同じ雰囲気(無精ひげとよれよれの服)で登場・・・
そんな彼に紹介されて、壇上に上がったポール・スミスが、「レクチャーなんて大それたものではなく、ただの僕の話ですからね」と笑顔で始めると、そのニュアンスの妙とユーモラスな語り口調から、会場にどっと笑いが起こった。
こうしてすっかり和んだ雰囲気の中で、スミスは、たくさんのスライドを見せながら、デザイナーになったいきさつや、ショップの展開、ショーのこと、仕事場、インスピレーション源、ブランディングなどについて語った。
そして、集まった人に向かって、たくさんのアドバイスを伝えた。

_DSC6871

 

「クリエイティブな実業家にとって大切なことは、収入源を確保しながら、自分のクリエイティビティをしっかりと開花させること。いつも既存のルールを破るスペースをしっかりと確保しておくことです」。そう言ってアレクセイ・ブロドヴィッチがアートディレクションを手がけた雑誌を例に出した。
「全ての事がらにインスピレーションは見いだせるはず。それができないとしたら、見かたが悪いんです」と言って、彼の斬新な作品の数々と、インスピレーション源となったスナップ写真やカラーパターンなどを紹介。

また、自分のこれまでの広告写真を紹介しながら「雑誌に広告を載せる機会のある人は、広告で何を伝えたいのかを今一度考え直してみるといいですよ」と説明をしたり。
そして「ネバー・アシューム」(決めてかかるな)、「何もしなければ何もできない」などのスローガンを挙げながら、自分の哲学を柔らかい口調で語った。

ダンディな英国紳士ポール・スミスをゲストに迎えたバンカラなピート(左)。

並ぶ姿を見ると対照的なところばかりに目が行くけれど、卓越したクリエーター、そして起業家であり、独創的で、いつも自然体で、非常に社会性ある人物という点で強く共通していて、ふたりは意気投合しているように見えた。

26日の夜、そして27日には、オンライン新聞、さまざまなデザイン系ウェブサイトやフェースブックなどで、このレクチャーの話題に花が咲いていた。

_DSC6911